いのちの教育2023について学校法人新島学園 理事長 学園長 湯浅康毅 |
2023年度新島学園中学校・高等学校同窓会根笹会会報誌『根笹』発行、誠におめでとうございます。昨年に引き続き今年度も学園長を兼務させていただいております湯浅康毅でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
本年度の根笹会総会において、これまで中高PTA会長をはじめ根笹会では長く副会長をお務めいただき、この度新会長にご就任された靜 朋人様には心からお祝い申し上げます。また新たに本部役員のお立場を担われる皆様方にも是非母校・新島学園の歩みを更に盛り立てていただきますようご指導のほどよろしくお願い申し上げます。
靜新会長様におかれましては、私がPTA時代に安中地区役員として参加していた時にご一緒させていただいたり、現在では学校法人新島学園の理事として日頃より欠かせない経営陣の一員としてその責務を十分に果たしていただいたりしております。是非これまで以上に学園と同窓会との絆が更に進化・深化していくことができますようお力添えを賜ることが出来たらと願っております。
そして、これまで3期にわたってお務めいただきました立見賢治前会長様にはコロナ禍の影響により同窓会運営が非常に難しい中にあって常に母校に在籍する後輩のことを一番中心にしてお考えいただき、同窓会として何ができるのか? を常に問い、答えを見出してくださいました。また一緒に歩んでくださいました前役員の皆さま方にも心からの御礼を申し上げます。
2019年度末から始まり全世界中に猛威を振るった新型コロナウイルスの影響により、多くの方が日常を制限される生活を強いられ心を痛める年月が続くことになりましたが、今年度からは軽減され日に日に日常を取り戻すようになってきました。
久しぶりに根笹会総会・懇親会が行われ、また地区別根笹会も多くが4年ぶりに再開され、世代を超えた多くの同窓生たちとの交流も戻ってきており、嬉しいばかりであります。
この交わりで改めて思いますことは、本学は多くの多様な同窓生による物心両面の支えによって永続できていることであります。改めまして根笹会本部及び各支部の皆様には日頃新島学園へのご協力を賜り心からの御礼を申し上げます。
この度根笹会運営を担ってくださる皆様の変更がありましたが本学も人事異動がありました。まずは前年まで古畑晶前校長の下、副校長を務めておりました小栗仁志先生が今年度から第12代の校長として就任いたしました。小栗新校長は長らく本学のキリスト教教育を担う宗教主任としてお働きいただいておりましたが、2019年度に教頭、そして2022年度に副校長を歴任され、この度校長に就任いただくことになりました。
本学奉職後、一貫して建学の精神である新島襄の精神を「自由」と表現し、掲げるメッセージや行動を通して「自由」の精神を貫いた教育を大切にしていただいております。今後は「良心に基づく自由」を根幹に置いた教育を実践していただきます。同窓生の皆様も是非小栗新校長を応援いただきますようお願い申し上げます。
また小栗校長を支える教頭人事として、昨年からの継続で田中聡子先生が、そして新任として45期生の櫻井俊光先生が就任されました。また昨年まで中高事務長をお勤めいただいた佐俣幹夫氏が短期大学の事務長として異動され、新たに細谷 聡氏(前短大学務課長)が新事務長に就任しております。
現在群馬県内の私立学校を取り巻く教育環境は過渡期にあり、外部環境の変化に迅速に対応していくことと同様に学内の変化も求められております。現在新校長のリーダーシップによる学内改革を積極的に進めていただいており、また支えていただいている教職員一人ひとりの理解と協力により、様々な試行錯誤を行いつつ日々最良の教育環境を提供できるよう尽力いただいております。
これら学内の取り組みが皆さんにとって後輩にあたる生徒たちの成長に伴走し支援する日々の積み重ねが、生徒の成長だけでなく教師の成長にも繋がる「友はわが師、師はわが友」を象徴する学園独自の文化醸成に繋がると信じております。
一方で学園全体を捉えてみますと、今年で創立76周年を迎えております。現在創立100周年を見据えて2017年の時に掲げました「NIIJIMAGAKUEN GRAND DESIGN 2027:木を育てる。」ビジョンを推進中であります。
この中で今年は大きな出来事がありました。それは安中市と学校法人同志社が包括連携協定の締結を行ったということです。この協定の元には、我々の建学の精神である新島襄がいるということであります。今年が新島襄生誕180周年であり、再来年には学校法人同志社が創立150周年を迎えるタイミングであり、国内で初めて当地に新島襄による福音の種が蒔かれて149年目の出来事であります。
これまで何世代にもわたって双方の関係性が目に見える形で、また一方で目に見えない形で伝承され育まれてきた文化・歴史を背景に正式に手を結んだということになります。
間に入り調整をさせていただき、これから本格的に交流を深めていく流れの中で新島学園の存在は非常に重要であり、ますます活かされようとしています。
4年後に迎える創立80周年に向けて新たな新島学園の姿をお示しするための全体構想を策定中です。今後も新島学園でしか行うことができない取り組みに磨きをかけてまいりたいと思います。規模の拡大だけを目指すのではなく、影響力の拡大を目指し、新島学園の森づくりに導いていきたいと思っています。
さて昨年は本学の次世代に繋げていく新たな取り組みとして位置付けている「いのちの教育」について触れさせていただきました。今年は進捗状況についてご報告させていただけたらと思います。
「いのちの教育」とは、新島学園が開学以来大切にしてきた良心教育を具現化した取り組みであり、現在歩みを進めております第5次中期経営計画に繋がり、理事長ビジョンである「No Place like Niijima」に通じ、教育理念である教育の五原則と関係し、建学の精神の実現を目指すための次代の学びの在り方でもあります。
「いのちの教育」を推進していく上で大切な視点を3つ挙げさせていただいております。
一つ目は「キリスト教」の視点です。こちらは昨年の「根笹」でも触れさせていただいた「全面受容と問い」の側面から「いのち」について考察していきたいと思います。
二つ目は「生物多様性」です。自らのいのちと他のいのち、そして繋がりについて共に学んでいけたらと思います。
三つ目は「世界市民」です。教育の五原則「己を知り、国を愛し、隣人に仕え、世界を友とする心を養う」を象徴し、今後ますますグローバル化が進む中にあって本学として真の国際性を定義するワードとして挙げさせていただいております。
昨年度は学内の狭い範囲ではなく、出来るだけ様々な視点から「いのち」について理解を深めるため情報収集を行い、宗教別、国別での捉え方、日本(群馬県・安中市)での取り組み事例について、専門家からのヒアリング、現地視察等実際に足を運び実体験をしてきました。
また同時に学内の教科別、学年別、校務分掌別の先生方とも意見交換をし、現在既に「いのちの教育」として捉えることが出来る既存の取り組みを確認したり、意見交換の中で新たなアイディアや違う視点が生まれ、理解を深めることができました。
このような準備期間を経て、昨年度末に中学1年生と3年生を対象に「いのちの教育キックオフセミナー」を企画し本格的にスタートすることが出来ました。
セミナーでは、いのちを繋いでいくために必要な「食」についてお二人の講師をお招きしました。お一人目は、下仁田町で、貴重な経木を使用した納豆を製造されている㈲下仁田納豆の南都由美様による紙芝居「まめたんのたんじょう」をご披露いただき、大豆という一粒の「いのち」がどのように生まれ、我々の体になっていくのか紙芝居を通してお話しいただきました。お二人目は、甘楽町で農業、印刷業、デザイナーとしてご活躍で、2020年より新島学園ファームの農業指導をしてくださっている強矢義和様で、演題は「農業・宮沢賢治に学ぶ〜いのちの教育に寄せて〜」でした。南都様の「食べたものが体になっていくこと」、強矢様の「自分を勘定に入れない生き方」のメッセージは共に大地の恵みを直接感じながら過ごしておられる方々ならではの活きた言葉でありました。講演には新島学園の取り組みをお支えいただく㈲下仁田納豆代表であり、評議員もお務めいただいている南都隆道様、そしてかぶら大豆生産者協議会の皆様にもご同席いただきました。
今年度が始まってからは、新たな中高ホームページで「いのちの教育」専用のページを設けていただき広く案内をし、全保護者宛の通知で報告・協力依頼を行い、礼拝堂での礼拝が復活した際には奨励を担当させていただき「いのち」について全生徒向けにメッセージを送らせていただきました。
また先生方には今年度「いのち」についてお一人お一人に独自で考えていただき授業等に反映し実行していただけるよう依頼もいたしました。早速ある先生は朝の放送礼拝で「いのち」をテーマにお話しいただいたり、他の先生の場合は修学旅行で震災をテーマにして候補地を選定していただいたり、他には助産師による出前講座を企画していただいたりと、昨年からのアイディアを具現化していただけるように活発化してきています。
一方で今年の評議員会で「いのちの教育」の進捗状況について報告させていただきました際には、評議員会終了後にある評議員様より県内の障がい者施設について情報をいただけたり、ある根笹会では乳がんに関する支援をしている卒業生との情報交換があったり、保護者の方からも県内の医療関係者が執筆されている書籍についてのご紹介があったり、近隣教会との連携事例に飛躍したりと、この取り組みの説明と協力依頼をすると多くの学内外の新島学園を支えてくださる皆様より具体的な情報をいただけるようになり本当に有難い気持ちで一杯であります。
今後「いのちの教育」を更に本学らしい取り組みとするために現在構想しているプロジェクトがあります。その一部をご紹介させていただきます。
今年6月6日に栃木県那須塩原市にある学校法人アジア学院様に初めてお邪魔して来ました。
アジア学院様は、東京都町田市に設置した鶴川学院農村伝導神学校内東南アジア農村指導者養成所を前身に1973年に現在地にキリスト教主義の学校法人として誕生し今年で創立50周年を迎えます。
これまでに約60か国以上、1399名がアジア学院を卒業し世界中で農業指導者として奉仕しています。
創立者は日本の神学博士・牧師である髙見敏弘先生です。そして校長先生は、新島学園34期生である荒川朋子先生です。
本学は以前よりアジア学院様と交流を持たせていただいており、高校生のワークキャンプや短大生用のスタディツアー等実施しておりましたが最近は新型コロナウイルスの影響によりここ数年は実施できておりませんでした。
今回の訪問の目的は、荒川先生には今年度より本学の評議員にもご就任いただくこともあり、また非常に先進的な取り組みを50年間取り組まれて来ている学びの場を是非直接触れてみたいと思い、今後の「いのちの教育」を通した連携も踏まえ訪問させていただいた次第です。今回は新島学園ファームの農業指導を行っていただいている強矢義和さんにご一緒いただきました。
到着早々人生初となる田植えに挑戦し、その後荒川先生に各施設を丁寧にご案内いただき、また全て農場、施設内で収穫した食物を使用したビュッフェ方式のランチをご馳走になりました。
兎に角、アジア学院様の取り組みは圧巻の一言でした。
50年間片時も休むことなく、しかしそれは何かを達成するために無理強いするような脅迫感ではなく、それぞれ世界中から使命を携えて集まった人たちの熱量によって自発的に作り上げて来てこられた場の空気の迫力と言いましょうか。
または掲げるミッションが太い幹となって、全ての取り組みにしっかりと繋がり合い、スパイラルアップしている様を目の当たりにしたからでしょうか。
決して難しいことを伝え行っているのでは無いですが、実は現代において最も身近でありつつも最も伝えづらいことの一つを実践されておられるからでしょうか。
見た目も背景も違う世界中から集められた次世代の指導者達の価値観が交錯し練られた独自の価値観がそこに歴史的に積み重なって存在しているからでしょうか。
足元に自然と咲く、十字架をイメージするドクダミの花もまるで意図してそこに植えられているのでは? と錯覚してしまうように、様々な存在している要素が緩やかながらも一つのビジョンに向かって束ねられている塊感とでもいいましょうか、何もかもが初めての体験でした。
兎に角、人間は時折命を消費するだけの存在になってしまうこともありますが、アジア学院様では見事に命を無駄なく再生産されており、循環されています。
今後新島学園で「いのちの教育」を進めていく上で連携を図っていけたらと思います。
荒川先生にはお忙しいところご対応いただき誠に有難うございました。そして学生の皆さん、ボランティアスタッフの皆さん、ご関係の皆さん、ご一緒させていただき有難うございました。
8月13日に(一社)安中市観光機構主催の廃線ウォークに、中高教頭の田中聡子先生、教諭の後藤勇治先生と私の3名で参加してきました。
このツアーは1997年に廃線となり、現在は立ち入り禁止となっている信越本線横川〜軽井沢間約11㎞、高低差約550m、最大勾配66.7‰、18のトンネルを徒歩で約5時間かけて踏破する内容です。
大変人気の観光ツアーで、開始してから5年になろうとしているそうですが、国内の鉄道ファンはもとより最近では海外の方も参加していたり、その他は研修目的でも開催されるなど年々ニーズが多様化し認知度が高まっています。
参加者全員安全のためにヘルメットを被り、ガイドを担当される安中市観光機構の上原さんの語りをイヤホンで聴きながら、明治時代から続く碓氷峠の鉄道文化や歴史について理解を深めていきます。
あるトンネル内では素敵なプレゼンテーションタイムがあったり、他ではベストマッチな音楽が途中流れたり、トンネル内だからこそ出来る「特別な体験」であったり、このツアーだからこその絶景を思い出として刻むことができたり、またこの季節ならではの小さな自然の脅威(ヤマビル)も体験できたりと、全てが初めての体験であり、且つかつてEF63が活躍した横川〜軽井沢間を電車で通った記憶がある者にとっては更に感慨深く特別なひと時となりました。
安中の地で創立した本学が地域連携の意味も含めて地元の歴史を学び直し、生徒・学生に対し「いのち」という視点でこの唯一無二の体験をどのように伝えていくかを考える貴重な視察となりました。
参加にあたり(一社)安中市観光機構の萩原局長様、上原様には色々とお気遣いをいただき誠に有難うございました。またサポートいただきました群馬県立松井田高等学校の神戸先生も有難うございました。
このようなかたちで現在日々「いのちの教育」の取り組みが実践されアップデートしており、他にも多くの関連する構想が進んでおります。この取り組みは海外との交流も含まれています。本誌が発刊される10月には2019年以来のボストンに出向き、新島襄ゆかりの教会や学校との交流を深める機会が復活することになりましたし、また、別の機会で新島学園ファームの取り組みを通してEUの生産者とも交流を進めるための関係性を構築することも始めています。
これからも「いのち」をテーマに様々な視点を通して新島学園としてこれまで行ってきた関連する取り組み事例を確認し、他を模倣し、こなすための表面的な行事ではなく、私立学校として建学の精神の実現を達成するために新島学園独自の教育の在り方を目指し、年を追うごとに練られ熟成され、オンリーワンの誇りある伝統校・新島学園としてしっかり育てていきたいと願っています。
同窓生の皆様には是非母校に後輩たちを激励しにお越しいただきたいと思います。そして新島学園の歩みに対して引き続きのご理解とご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます。