新しい学びに向かって新島学園中学校・高等学校 校長 小栗仁志 |
新島学園中学校・高等学校同窓会根笹会 会報「根笹」の発行、おめでとうございます。また、平素より同窓会根笹会の皆様には、新島学園中学校・高等学校の活動にご理解、ご協力、ご支援を賜り、この場を借りて改めて御礼申し上げます。校長就任2年目を迎え、まだまだ力不足を痛感する日々であります。引き続きご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。最近の本校の様子をご紹介するとともに、本校が、また、日本の教育界全体が直面している学びの変化にも触れてみたいと思います。
2017年に幼稚園、小学校、中学校の学習指導要領が、2018年に高等学校の学習指導要領が改訂されました。世界的な教育の潮流の変化を受けての改訂です。2024年は、その改訂された学習指導要領が全面実施となる年です。新しい学習指導要領の特徴は生徒の「育成すべき資質・能力」の変化、つまりは学力観の変化です。学習指導要領の総則には「基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得させ、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力を育むとともに、主体的に学習に取り組む態度を養い、個性を生かし多様な人々との協働を促す教育の充実に努めること」と書かれており、生徒が身につけるべき資質・能力を「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性・協働性」の3つの柱から述べています。
かつてのようなペーパーテスト中心、暗記と知識中心の学習ではなく、得た知識をいかに活用し社会に貢献していくのかが重要視されています。それに伴い、あるべき授業の形も学校カリキュラムの編成も変更が求められています。授業はかつてのように教師が一方的に説明し生徒が座ってそれを聴くようなチョーク&トーク型の授業から、主体的・対話的で深い学びの実現を目指したアクティブラーニング型の授業へと変化してきています。まずは解決すべき課題を見いだし、その課題を解決するのに必要な知識を自分で調べて、その解決方法を時にグループで話し合い、まとめ共有していく、そうした主体的・対話的な授業がアクティブラーニングです。従来は「何を学ぶか」に重点が置かれていましたが、これからは「いかに学ぶか」により重点が置かれるようになっていきます。学校に滞在する時間の中で、どれだけ多くの知識を貯めこむかではなく、生徒が学ぶ姿勢を整えることが学校教育の役割になっていくことでしょう。
新型コロナウイルス流行に伴い、日本の教育現場にデジタル技術が急速に導入されました。電子黒板や大型モニター、1人1台端末を使っての授業展開は今や常識のようになっていますが、そうしたデジタル技術の進展はアクティブラーニング型授業を後押ししてくれます。本校でも数年前に導入した大型モニターやタブレット端末(iPad)が授業の中で活躍してくれています。私は高校3年生のキリスト教の授業を担当していますが、私の問いかけに対し、タブレット端末を通じて生徒の意見を迅速に集計することができ、相互の意見のやりとりが容易にできるようになっています。今の生徒は人前で発言するのを嫌がる傾向があります。その点、タブレット端末を使っての書き込みは生徒にとって取り組みやすいようで、教師、生徒双方の意見を交わしながら授業を展開することが可能になっています。今年度本校は文部科学省の「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」に採択され、情報技術のより充実を推進しています。そして情報教育の充実と共にアクティブラーニング型授業への転換を図っていきます。
また、従来は授業を通して教科ごとの知識を別々に得る形の学びでした。これからは社会の様々な課題を発見し、その課題を解決するのに必要な知識や技能とは何か、を考えて、教科の枠組みを超えて主体的に収集・習得していく、そうして得た知識や技能を元に仲間と共に課題の解決策を検討していく、そのような学びのスタイルがどんどん学校現場に導入されていきます。いわゆる学際的な「課題解決型学習(Problem-Based Learning)」です。現在のカリキュラムで言えば、中学では「総合的な学習の時間」、高校では「総合的な探究の時間」が、そうした学びをより深める時間として重要になっていきます。大学受験でも上記の時間に何を行ってきたかの情報を求められるようになってきており、受験対策的な意味でも、本校はより力を入れて総合的な学習、探究の時間を強化していきます。
これからの学びは学校の中だけで閉じたものではなく、地域の様々な活動に参加する中で、地域の課題を発見し、その解決策を考えていく体験型、参加型の学習がより必要となっていくことでしょう。本校でもそうした変化に対応する形で様々な学びの機会を作ってきています。現在、高校生を対象に進路指導部が中心になり課外活動として実施しているスタディツアーは、社会の様々な課題に触れるよい機会となっています。地域のボランティアの紹介も随時行っています。有志の歯科医師の方々が中心になって行ってくださっているフィリピン医療ボランティアが新型コロナウイルス流行に伴う中断の後に再開され、多くの高校生が参加してくれました。安中市議会議員の方々と生徒との意見交換会も行われました。安中市や高崎市の町づくりに関して参考意見を求められる機会があり、希望した生徒が積極的に参加してくれています。特に昨年度、現高校3年生の74期生が高校2年生であった時に、地元の企業・団体の皆様の協力を得て全員参加のインターンシップ(職業体験)事業を行いました。数人1組で受け入れしてくださる企業・団体に行き、実際の職業体験のみならず、企業・団体より出していただいた「事業所からの課題」への取り組み、発表など大変有意義な学びのときとなりました。失礼な行動などがないか心配した部分もあったのですが、学年の教師が事前によく準備をし、生徒を指導してくれたおかげで、受け入れ先の企業・団体からも大変な好評をいただきました。また生徒たちの持つ人間力を改めて感じさせられました。74期の学年団の強い希望で始めたプログラムでしたが、インターンシップはこれから中高6か年の進路指導の中に計画的に組み入れ、別の形で定期的に実施していきたいと考えております。
新型コロナウイルス流行に伴い中止していたアジア学院ワークキャンプを5年ぶりに再開し、6名の高校生が参加してくれました。アジア学院は正式にはアジア農村指導者養成専門学校と言います。栃木県那須塩原市にある農業の学校です。アジア・アフリカの農村指導者を日本に招き、9か月にわたり持続可能な有機農業とリーダーシップトレーニングを行います。ワークキャンプは農作業のお手伝いをしながら、農業や食べること、アジア・アフリカの現状について学ぶ機会でもあります。私はアジア学院とは前職からのつながりがあり、今回は引率で参加しました。パキスタンから来ている学生のノミさんに地元の現状を話してもらう機会がありました。ノミさんが暮らすクリスチャンの村は、イスラムが国教のパキスタンの中で厳しい差別にあっていること、女子学生が暴力を心配して暮らさねばならないこと、そうした状況の中で女子学生の学びを保証するために命がけで働きたいこと、参加した生徒たちは自分たちが暮らしている状況との大きな違いを生の声で聞き、強く心が揺さぶられたようです。学校から外に出て様々な活動に参加することを通して学ぶことの大切さを、改めて実感させられました。
生徒たちと一緒に地域の活動に参加して感じることは、本校の生徒の持つ力の大きさです。昨年度、今年度と安中地区のいじめ防止フォーラムを本校を会場に実施しました。近隣の小学校、中学校、高等学校の代表メンバーが集まり、いじめ防止のために意見を交わすプログラムです。本校の生徒会のメンバーが中心になって企画運営を行ったのですが、集まったメンバーを見事にリードして、充実した会になりました。目標を持って何かを達成する力、特に他者とコミュニケーションをしっかりとって協働して進めていく力の大きさを感じました。これからは学校づくりも生徒たち、特に生徒会のメンバーの意見をよく聴きながら一緒に進めて行きたいと思います。この夏、生徒会の要望に応える形でアイスクリーム自販機を導入しました。事前に校内のゴミの分別や整理整頓を今一度徹底し、学校を汚さない約束のもとに導入が実現しました。単に要求をするだけでなく、自分たちのすべきことも考慮して進める丁寧さが印象的でした。
旧約聖書の箴言1章7節に「主を畏れることは知恵の初め」という有名な言葉があります。旧約聖書を育んだイスラエル民族は、他国に征服され、長く自分達の国を持つことができなかった人々です。領土のないイスラエル民族は生き残るために「知恵」を重視しました。神の御言葉である聖書を熟読し、自然や世界を学ぶことを通して民族の生き残りを図ったのです。その知恵の原点は、「主」、すなわち神を畏れ敬うことだと言います。聖書の語る知恵は単なる知識ではなく、生き方であり、生きる中で磨かれるものなのです。まさに現代求められている新しい学びの原点がここにあります。
新島襄が行った同志社の初期の教育も、教師が一方的に語るのではなく、今でいうゼミナール形式で、毎回課題について討論するような形式だったと初期の学生が証言しています。新島襄の教育理念は、今、日本の教育が目指そうとする新しい学びそのものでした。その点では時代が新島に追いついてきたということでしょう。しかし、これからは国が新島の行ったような教育を目指し始めるということになります。うかうかしていたら、追い越されていくことでしょう。改めて本校の建学の精神である新島襄の教育理念に立ち戻りつつ、新しい学びへと邁進していきたいと思っています。それには地域の同窓生の皆様のお力添えが必須です。これからも母校のことを覚え、祈り、ご支援いただければ幸いです。